本記事は、2023年7月14日より全国で公開されているスタジオ・ジブリ最新作『君たちはどう生きるか』のネタバレ有り感想・レビュー記事となります。
正直、かなりのネタバレ厳禁映画というか、個々の第一印象が重視される映画なので、こういう形でネタバレになってしまう記事をUPするのは不本意なのですが、上映から2週間以上が過ぎ、そろそろ語っても良い雰囲気が出てきたので語る事にしました。
「君たちはどう生きるか」ネタバレ有り感想・レビュー
冒頭にも書きましたが、本記事は「君たちはどう生きるか」の物語やキャラの心情にフォーカスした感想・考察が中心の為、物語の裏に隠された『謎』を紐解く様な考察記事にはなっていません。
本作を観て筆者がどう感じ、どう思ったかを吐き出しているだけなので、あまり過度な期待はしないでください。―――それでは早速行きます!
序盤の夏子さんの距離の詰め方がエグイ!
母『久子』の死からまだ幾分も立たないまま、再婚を決めた父。
―――しかもその相手が『久子』の実の妹である『夏子』というのだから、『眞人』からすれば中々に受け入れ辛い状況であるのは間違いありません。
まぁ、当時の時代背景を鑑みれば、「順縁婚」(死別した妻の姉妹と再婚すること)自体はさほど珍しい事では無かった様ですが、現代人である我々からするとかなり異質な展開で、それは思春期かつ母の死の哀しみが未だ癒えない『眞人』にとっても相当なストレスであったはずです。
―――にも関わらず、少しでも早く打解けようとグイグイと距離を詰めて来る『夏子』。
『夏子』の気持ちも分からなくもないですが、ほぼ初対面レベルの状況で、強引に手を引いてお腹を触らせながら「この中にあなたの弟がいますよ!」って距離の詰め方は明らかに悪手!
―――しかも、死んだ母の面影を感じる容姿をしている女性って……流石にエグ過ぎでは!?
「お腹の中に子供がいるって事はお父さんとこの人はそういう事をした訳で、しかもこの人は久子母さんの実の妹で、面影もあって、あああああああああ―――――」ってなるでしょ。普通。
冒頭の空襲シーンも確かに凄く印象的だったんですが、個人的にはこの何気ない初対面のシーンの方がエグ過ぎて、もう色々吹っ飛んで行ってしまいました。
それ以外にも、夜の会話、夏子の部屋に掛けられた父のコート等、やたら男女の営みを思わせる描写が多くて、いつものジブリとは明らかに毛色が違う作品である事が冒頭から伝わってきました。
父(キムタク)のズレっぷりがリアルで逆に良かった
- 転校初日に車で登校させる
- 学校に怒鳴り込む
- 「仇をとってやるからな」発言等々
キムタク演じる『眞人の父』が終始ズレまくってて逆にリアルで良かったですね。
父の気を引く為に自傷によって頭を切った『眞人』に対し、一番欲しくない返答をくれる父。
――――もう最低最悪のアンサーと言えるけど、このズレ方にはリアルを感じました。
恐らく精一杯良い父親をやろうとして頑張っているんだけど、頑張れば頑張るほど息子との距離が離れていってしまう。……そんな不器用な男って感じがとても良かったですね。
経営者という立場を考えれば、自分ならうまくやれるという自負やプライドも強いだろうし、何より、この人自身も妻を亡くしたばかりな訳で、そう思うと色々と考えちゃうキャラでした。
実際、失踪した息子たちを真剣に探す姿は本物でしたし、実際良い男だと思います。
青鷺との対決準備・対決シーンが純粋にワクワクする
青鷺(鳥状態)との対決準備と対決シーンが本当に胸躍った!
盗んだタバコで老人を懐柔して手製の弓を作ったり、庭で弓の練習をしたり、戦利品である羽根でオート追尾の矢を偶然作ったり等、お家にいながら滅茶苦茶アドベンチャーしとる!!
パート的にはそんなに長くは無かったですが、青鷺との対決の為の準備シーンは本当にワクワクしたし、対決シーンは鷺を迎え撃つ描写が滅茶苦茶格好良かったですねぇ……。
あと、矢の名称が『風切の七番』ってのも厨二心を擽りました!
調べてみたら、鳥の風切羽って並びによってそろぞれ名前があるらしく、その七番目の羽が青鷺の弱点だったって事みたいですね。※風切羽を一部でも失うと鳥は飛行に障害がでるらしいので、矢を受けて飛行困難になっていた描写にもちゃんと意味があったのか……って感心しました。
塔に向かい産屋に籠ろうとした夏子さんの心境とは?
何故『夏子』は産屋に籠ったのか?『眞人』を拒絶する様なそぶりを見せた心中とは!?
――――ここも人によって見え方に結構差が出てきそうなポイントですが、筆者の目にはこういう風に映りました。
- 『夏子』が産屋に籠った理由
妊娠や眞人の露骨な態度(拒絶)によるストレス。姉が愛した人に抱かれているという後ろめたさ等、様々な事が積み重なって限界が来た。 - 『夏子』が産屋で言い放った一言(眞人に対する拒絶のセリフ)
失踪前までの夏子の立ち振る舞いを見るに、眞人の事を蔑ろにしている印象は無い。距離の詰め方は正直強引だが、それも少しでも早く本当の意味の家族になる為の努力に見える。青サギが眞人を誘惑した際も真っ先に対処していたし、産屋での発言が本心であるとは到底思えない。「塔」に入るトリガーが現実逃避にあるのであれば、「何故こんな所に来たの?」という発言にも合点がいく為、眞人を現実に帰す為にあえて強い言葉を使ったのではないだろうか?
もしかしたら『青鷺』や『大叔父』から『眞人』を守る為の身代わりという意味もあったのかもしれませんが、ちょっとそこまでは汲み取る事が出来ませんでした。
あと、これは私が勝手に妄想しているだけなんですが、『久子』と『眞人の父』が結婚する以前から、実は『夏子』は『眞人の父』に思いを寄せていたのではないか?と思っています。
まぁ何の確証も無いんですが、あれだけ器量の良い『夏子』があの年まで独り身※である事や、結婚後疎遠になっていた事等、引っかかる点が多いんですよね。もし、元から思いを寄せていた相手を姉に譲った形だったのであれば、『夏子』の想いにもまた違う表情が浮かんでくるので、それはそれで興味深くはあるんですが、これは邪推の域を出ない話なので忘れてください。
火に焼かれ死ぬ事よりも眞人を生む事の方が尊いという久子(ヒミ)の決断
―――火に焼かる運命だったとしても、そんな事よりも『眞人』を生む事の方が重要。
現実世界でも母が子を想う気持ちは途轍もなく強いと思っていますが、この決断を11か12の少女があっさりと下してしまうという覚悟っぷりが滅茶苦茶凄いシーンでした。
『青鷺』が「どうせお前も忘れちまうんだ」的な事を言ってましたが、『眞人』と『久子』の二人は、あの不思議な邂逅について覚えてて欲しいなーって思ってしまう自分がいます。
朧気だったとしても、『眞人』との再会をワクワク心待ちにしている『久子』の姿を想像したら、「それはとても素敵な事じゃないか!」「尊い事じゃないか!」
―――また、そういった葛藤や覚悟の末に、「君たちはどういきるか」という道標を『眞人』に残したと考えると、色々合点が行くような気もします。
何故タイトルは「君たちはどう生きるか」なのか?
恐らく、宮崎氏が少年時代に感銘を受けた作品であり、氏にとってのマスターピースって事なんでしょうけど、ある意味””挑戦””でもあったんじゃないか?と思っています。
―――というのも、「君たちはどう生きるか」という作品自体が、主人公『コペル君』が『叔父さん』との交換日記の中で、様々な気付きを得て、その気付きを日常生活で実践したり、時には実践できなかったりしながら少しずつ成長していく物語で、そんな『コペル君』の姿勢や精神が、読み手である我々にフィードバックする様な教養小説的な側面が強い作品になっているんですね。
―――これって、今回の映画も凄く似ているな……って思ったんです。
少なくとも私は、本作を観て色々と考えさせられましたし、他の人のレビューを拝見してても、面白いかどうかは別として、何かしら引っかかってる人が圧倒的に多い印象を受けました。
これをどう解釈するかは人それぞれではありますが、氏が少年時代に「君たちはどう生きるか」を読んで感銘を受けたのと同様に、現代の子供たちにとっての「君たちはどう生きるか」になりたいという挑戦だったのではないか?……そう思わずにはいられないんですよね。
子供たちの読書離れが問題視される昨今、アニメーションで子供たちの道標を作ろうとしていたのであれば、それはトンデモナイ挑戦と言わざるを得ません。
自分が82歳になった時、そんな挑戦的な姿勢をとり続ける事ができるのか?
そんな自信は全くないけど、「そうありたいなぁ…」と思わせてくれる作品です。
「君たちは、どういきるか」
吉野源三郎氏の名著と同様、本作も最後に大きな問いを残してくれました……。
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